転居してから3回目の正月を迎えるための買い物に出たついでに、毎年、初詣に出かける赤城神社と、そこから少し西の方、江戸川の河川敷へと足を伸ばしてみた。今、こうして暮らしているところは、自分が中学生の頃から住んでいた土地ではある。ただ、小中高とも市外に通い、大学からはひとり暮らしで実家を離れてしまったので、全く地元感はなく馴染みのないままだった。大学を卒業してからは、これまたひとところに落ち着かず、あちらこちらとその時々の都合で動いてばかりで、この先も「地元」といった意識とは無縁のまま暮らしていくのだろうなと思っていた。
 ところが、10数年前に転居した向島がとても気に入って、15年ほどそこに留まり暮らすことになった。生まれた土地である秋田、小学校時代を過ごした木曽福島、そして最も長く暮らした向島が、自分にとっては馴染みのある場所。そんな思い入れのある場所から引っ越すには思い切りが必要だったが、随分と悩んだ挙句、ちょうどコロナ感染症が広がり始めた2020年のはじめ、実家や職場に近いこと、地面に近いことが決め手になって、今の住まいに転居することを決心した。
 転居とほぼ同時に県境をまたいでの移動が制限され、休日に入り浸っていた向島百花園には簡単には行けなくなった。近所を徘徊して下町の風景を撮ることもなくなり、かといって転居先のこの辺りに様子はよく分からない。外出は仕事場までの行き帰りくらいになって、写真を撮りに出ることはほとんどなくなった。その代わりに、住宅地にしては少しだけ広めの庭があったので、好きな植物を手に入れ、地面を掘っくり返して庭づくりに熱中し、あっという間に3年が過ぎようとしていた。
 この年末に、増えてしまった鉢ばらを地面におろし、樹木類の配置が終わって庭づくりの方はひと段落。今の住まいにもだいぶ馴染んできた気がして、この機にご近所のことを少し知ろうと思い立って、カメラを片手に神社と河川敷に向かうことにしたのだった。初詣を数時間後に控えて飾られた神社の境内はとても静かで、何もないだろうと思っていた河川敷には、枯れた草木に夕陽があたって実に良い雰囲気だった。気になる風景をカメラに収めながら、馴染みのなかったこの土地と、少しだけ仲良くなれたような気がした。
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